千原兄弟 千原ジュニアについて


キレた一重の鋭い目、ドスの聞いたダミ声、身長もデカく威圧感がある。
そして、ニヤリともせずに無愛想にボケる。それに生意気。
大阪時代では、そんな毒々しさが千原ジュニアのキャラクターであったが、
東京へ行ってからの千原ジュニアは完全に変わった。丸くなった。
自然とそうなったのか、意識的に変えたのかはわからないが、
「生意気さ」は消えた。そして、礼儀正しくなった
二重敬語になってしまっているほど丁寧すぎる言葉遣いをするようになった。
笑いへのこだわりは一切変わっていないが、
その表現方法や姿勢が変わった。それが現在の活躍につながっている
と言える。


まず、お笑い芸人の才能を大きく2つに分けたとき、
『発想タイプ』『トークタイプ』に分かれると思う。
『発想タイプ』とは、松本人志、板尾創路、渡辺あつむなどに代表される
ネタや大喜利などを得意とし発想で勝負するタイプ。
『トークタイプ』とは、明石家さんま、島田紳助、笑福亭鶴瓶などに代表される
話術、トークで勝負するタイプ。
さて、千原ジュニアはどちらのタイプであるか?
そう、ジュニアさんの笑いを見てきた人々には当然の事であるが、
どちらもそなわっているタイプなのである。
『発想』、『トーク』、どちらもおもしろく、どちらでも勝負できる芸人である。
広いお笑い界、どちらの才能もかねそろえている芸人は千原ジュニアだけかもしれない。
コントや大喜利での、あのキレた発想力に他の芸人はかなわないとさえ思える。
それだけでなく、天才的なトーク力ですさまじい笑いを生む。


しかし、そんなとてつもない笑いの才能を持ちながら、
東京へ進出してからの評価はそれほど高くなかった
現在はたくさんのレギュラーを抱える売れっ子芸人だが、
ここまで来るまでに、(大きな才能を持つ割りには)必要以上の時間を費やした。
…しかし、そうなってしまったのも当然と言えば当然だったのである。
なぜなら、ジュニアさんは損をしていたからである。
何度も言うように、絶対的な笑いの才能の持ち主である事に違いは無い。
大阪時代に「カリスマ」と呼ばれた事にも頷ける。
なのに、ある部分で絶対的な損をしている
それは、芸風がダウンタウン松本さんとかぶりすぎるからだ。


松本さんと芸風がかぶる芸人は他にもたくさんいるし、たくさんいた。
ダウンタウンのコピーだとさえ思わせる若手芸人もいた。
(ちなみに、私の中では、ナイナイ岡村さんもその1人である。
しかし、キャラ・見た目が全く違うため、一般視聴者は全然気づかない。)
ジュニアさんの場合は、しっかりとした実力があるにも関わらず、
松本さんと芸風が似ている為、それを、私は”損をしている”と考える。
やることなすこと全てが、松本人志の二番煎じになってしまう(思われてしまう)為である。


もっと具体的に何がかぶっているのかと言うと、
広いお笑い界においての立場、居場所などがかぶっている。
大げさに言うならば、もし松本人志が存在していなければ、
現在のダウンタウンのポジションには千原兄弟が居座っていたかとさえ思う事がある。
そして、松本人志と同じようなジャンルの笑いを披露し認められていただろう。
しかし、ダウンタウンという芸人が存在している以上、
必然的に、千原兄弟の居場所は無くなってしまう。


厳密に言うと、彼らの芸を比較すると発想やセンスは異なる。
例えば、「トーク」を比較してもジュニアさんの場合は、
実際に体験したエピソード話であり、構成やオチ、すべてがしっかりしていて、
そこには話術力が重要とされるトーク
が主になっているのに対して、
松本さんの場合は、いわゆるウソ話であり、トークと言えど、
そこには発想力が重要とされるトークが主になっているという大きな違いがある。
現在の、「チハラトーク」と「ガキの使いやあらへんで!」のトークを比べると一目瞭然である。
(もちろん全てがそうだとは言わないが)


だから、『笑い』が似ているのではなく『笑いへのこだわり・思考』が似ているのだ。
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自分がおもしろいと思った事だけをする。世間にはアホが多い。
スベったとしてもそれは客が悪い。楽しい事と面白い事は違う。
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…という思考がそっくりなのだ。
(ただ、全ての芸人がこういった考え方をすると思わないで欲しい。
千原兄弟と とても関連のあるジャリズム渡辺あつむさんの考えは、
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人によっておもしろいと感じることは違う。
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というのが信念だ。
もちろん、ジュニアさんが松本さんに影響されて、
そういう思考になったのならば損をして当然だが、そうでなかった場合、
世代的に若い方のジュニアさんが損をしてしまう事になる(実際、損している)。


しかし、実際には松本人志がやってきたことをなぞるかのようなことはしている。
「ガキの使いやあらへんで!」が高視聴率を取っている頃に、「すんげぇーベスト10」という大阪ローカル深夜番組でのバカトークのコーナー。(舞台で相方と2人だけでトークをするコーナー)
「遺書(松本人志著)」がミリオンセラーとしての話題が過ぎた頃に、連載コラムをまとめた「千原史」の出版、
松本人志のよく言っていたフレーズと重複するフレーズ
世の中の矛盾への怒り、そしてそれを笑いに変えるスタイル。
心斎橋筋2丁目劇場でのリーダー格としてのポジション
一人大喜利を書籍化し出版する
髪をセットする時間が無駄だからと言って坊主にした松本さんに対し、服を選ぶ時間が無駄だからと言って夏には作務衣しか着ないジュニアさん。
■自宅では自分でコーヒーを煎って飲むきれい好きで部屋に生活観が無いなど。
…こう並べると、確かに二番煎じと思われるかもしれないが、
同じようなことをやっても結果が出ていなければ意味はなく、
ジュニアさんの場合は松本人志と同じ事をやっても、
それができてしまう・結果が出せてしまうのだ。

ダウンタウンと同じ事をやろうとしたコピー芸人はたくさんいただろうが、
結果を出せた芸人は千原兄弟ぐらいではないだろうか。


ゆえに、千原ジュニアとして立つべきポジションに存在するには、
大阪時代のようにダウンタウンを否定し続けなければならなかったのだと思う。
今のお笑い界、ダウンタウンを否定できる芸人はいない。
ひょっとしたら、その役割をしなければならなかったのは千原ジュニアだったのかもしれない。
すると、(リスクは大きいであろうが)彼ら、千原兄弟の東京における
新たなポジションが生まれたかもしれない。
しかし、彼らはプライベートで仲間になってしまった。仲の良い先輩・後輩になってしまった。
よって、これからジュニアさんがダウンタウンを否定する事は、まずない。
ゆえに、今後、千原兄弟がダウンタウンを越えるような活躍をする可能性は少ないと感じる。
「千原ジュニア」と「松本人志」。変な因縁を感じるのは私だけだろうか?


ジュニアさん自らが番組なのでよく話すことではあるが、
バイク事故を機に、ジュニアさんの笑いへの姿勢や、笑いの表現方法が変化した。
上記に挙げたように、昔は、
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自分がおもしろいと思った事だけをする。世間にはアホが多い。
スベったとしてもそれは客が悪い。楽しい事と面白い事は違う。
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クイズ番組で答えるためにこの世界に入ったわけじゃない。
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という考え方を持ち、実際いろいろなメディアで自らそう表現していた。
しかし、現在は、「お客さんと笑いを共有する」という言い方をするようになった。
過去には絶対になかった自分から観客へ歩み寄るような姿勢が見えるのだ。
過去、笑いの照準は自分自身であった。自分がおもしろいと思ったことだけをしていた
しかし、今は客へ照準を合わし
分かりやすい言葉を選んだり分かりやすい順番を選んだりするようになった。
今は、クイズ番組にもたくさん出たいと言っていた(笑)
この変化が過去大阪時代尖っていたジュニアさんを丸くした1つの大きな要因である。


登校拒否・引きこもりの中学時代を卒業後、
高校をすぐに中退し、15歳でお笑いの世界へ入り、
現在までに、1994年に急性肝炎で4日間意識不明(助かる確率は50%だった)、
そして、2001年にバイク事故で全治6ヶ月の重症と、
2度も死にかけ、その度に奇跡的な復活を果たしたジュニアさん。
バイク事故後、ジュニアさんが整形した事により、
タレントとしては痛々しい姿を見せる事にもなってしまった。
しかし、幸運にも、事故後の千原ジュニアに笑いの劣化は見られない
神様も、彼から笑いの才能だけは奪わなかったのだ。


そして「Jr.」と言う愛称だが、これは芸名ではなく(2005年、千原ジュニアに正式改名)、
昔から家族に、そう呼ばれていた為の名残である。
しかし、ジュニアさん曰く、「ジュニアて…。息子やん!」



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●2003年10月03日初回更新日
●2008年10月26日追記・修正更新日