130R 蔵野孝洋(ほんこん)について


さて、ほんこんさんについてだが、ほんこんさんのおもしろさに気付いている人は、
一体どれくらいいるのだろうか?私は、案外多いのではないかと思っている。
とは言え、でも、それはごくごく最近になってからの事だと思う。
「ダウンタウンのごっつええ感じ」出演当初は、ほんこんさんへの評価は低かった。
それは、「ダウンタウンのごっつええ感じ」が終了した頃でさえ、
ほんこんさんへの評価はそれ程変わらなかった。
なぜなら、「ごっつええ感じ」におけるほんこんさんのポジションは「脇」だったからだ。
今田さん、東野さん、板尾さん、彼らは自分独自の自分だけにしか
できないポジションを見つけ出せていた。番組全体のボケである松本さん。
シュールな板尾さん。仕切りやその他マルチな部分を見せる今田さん。
イジメられキャラ・罰ゲームキャラ・脱ぐキャラの東野さん。
そして番組全体のツッコミである浜田さん。
その中で、唯一、ほんこんさんだけは自分のポジションが見つけ出せなかった。
それも当然なのである。それは、番組全体のツッコミが浜田さんだったからだ


基本、ほんこんさんの役割は「ツッコミ」である。
しかし、「ごっつええ感じ」のツッコミは浜田さん1人であった。
お笑い上、ボケはたくさん居た方がいい。
それも様々な芸風のボケがたくさんいた方がいい。
それに対し、ツッコミは1人で充分、というより、ツッコミ役は2人いらない。
ボケを仕切るツッコミは1人じゃないと成立しない。
それが笑いを生みやすいスタイルなのだ。
ボケとツッコミはお互いを活かし合うが、ツッコミとツッコミはお互いを殺し合う。
ゆえに「ごっつええ感じ」におけるツッコミは浜田さん1人で良く、
ほんこんさんが「ツッコミ」というポジションに付ける事は無く、
ほんこんさんは、「脇」に徹してしまった感があった。


しかし、最近になって、ほんこんさんのおもしろさに気付いたという人は、
「ごっつええ感じ」が終了し、ほんこんさんがピンで活躍する姿
見てからだという人が多いと思う。
今田さん・東野さんの批評のページにも書いたが、ピン芸人として、
活躍するための条件と言えば、それはツッコミ芸であるかどうかという事がある。
ほんこんさんは、その条件にピッタリと当てはまり、
ほんこんさんらしいツッコミ芸で、今の活躍の場を勝ち取ったとは言えないか。
「ごっつええ感じ」では自分のポジションが無かったほんこんさんだが、
「お笑い界」では、ピン芸人として、しっかりと自分のポジションを確立している。
しかし、その時、相方である板尾さんはピンとしての(お笑いの)仕事がほんとどない。
それは、ほんこんさんとは逆で、板尾さんはツッコミタイプの芸人では無いからだ
「ごっつええ感じ」では、自分のポジションを確立していた板尾さんだったが、
「お笑い界」では、ピン芸人としてのポジションが見つけられないのはその為である。
そして、お笑い界から離れたところで「役者」というポジションに立つことも多い
(お芝居も板尾さんのやりたい事の1つなので、決してそれが悪い事なのではない)。


その、ほんこんさんのツッコミ芸についてだが、今となっては珍しくも無いが、
いわゆる「ボケツッコミ」の先駆者は、ほんこんさんだっと思う。
(ボケツッコミという正式な名称は無いが、便宜上、このように呼ばせて頂く。
いわゆる、「なんでやねん!」とだけツッコめば良いところで、
ボケをプラスするツッコミ。例えながらツッコんだり、ツッコミ風ボケであったりする事)
130Rのネタ中に繰り広げられるほんこんさんのツッコミとしては、
「なんでやねん!お前んちの布団、雨の日に干したろか!」,
「なんでやねん!お前の関節みんな外したろか!」などがある。
板尾さんのボケに、まず「なんでやねん」とツッコみ、その後に一言付け加える。
コントのストーリー上、板尾さんのボケとは無関係な一言である。
付け加えたその一言はツッコミではなく、明らかにボケである。
ほんこんさんのツッコミの魅力はやはりここにある。
ツッコミにボケを交えながらツッコめるところ。


そして、ほんこんさんのツッコミに対して、
文句や愚痴にしか聞こえないという人も多いはずである。
しかし、まさしく、それがほんこん流ツッコミなのである。
ほんこんさんは性格上、自分を褒めちぎって欲しい人なので、
他人がウケるのは好まず、自分だけがウケる事をとても好む人だ。
その性格が彼のツッコミに幅を持たせている。要するに卑屈なツッコミ
ほんこんさんがボケた人間の頭をどついたり、
「アホか!いいかげんにしろ!」「やめなさい!」的な、いわゆる、
ボケがおかしいことを言った事に対して注意を与えるような種類のツッコミはしない。
(通常、これらがツッコミの定義である) しかし、実際のほんこんさんのツッコミは、
「お前だけウケんなやぁ!」、「オレのボケでも笑えやぁ!」など、
相手に注意を促すのではなく、「オレの事も見てくれや!」的なツッコミである。
注意を促すツッコミは立場的に「強者」でなければならない。
しかし、ほんこんさんのツッコミは明らかに「弱者」の発言である。
弱者が卑屈にツッコむのである。そこに自ずとある種のおかしさが生まれる。
それがほんこんさんの大きな武器なのである。
まさに、「我が強い卑屈な弱者」のポジションである。


そして、後輩若手芸人の番組に出演する事が非常に多いほんこんさんだが、
それも当然だと思う。要するに、ほんこんさんと共演する事で、
若手は安心できるからである。ちょっとイジっただけで、
卑屈なツッコミがたくさん返ってくる。たくさん笑いを生んでくれるからだ。
若手がネタに困っても、とりあえず、ブサイクに持って行けば笑いにはなる。
若手としても、とてもイジりやすい先輩なんだろうなぁと思う。
ある種、笑福亭鶴瓶さんのような立場である。
鶴瓶さんの「もっとおもろなりたい!」という発言。あれも、卑屈な発言であり、
ほんこんさんも、いい意味で、同じ道を歩んでいるような気がする。
後輩と絡むときのほんこんさんは、「イジられ役」というポジションを見つけ出している。
売れている先輩芸人と絡んでは、ほんこんさんの持ち味は発揮できない。
やはり、売れている・人気のある後輩と絡む事で、
ほんこんさんのこのような卑屈な持ち味が発揮される。
後輩に対して、「お前ら、もっと俺をゲストに呼べや!」と言う。
もう、これだけで、充分な笑いは生まれるからだ。


しかし、そんな卑屈なツッコミも、相方の板尾さんに対してとなると一風変わる。
卑屈なツッコミはしない。文句や愚痴も言わない。
板尾さんのボケを説明するようなツッコミもしない。そう、ただ、褒めちぎるのだ!
自慢の相方がボケているのを見て、「うちの板尾、おもろいでっしゃろ!」ってなノリだ。
その時のほんこんさんの表情は、とても喜びに満ちた笑顔である。
もちろん、それも一種のツッコミである事は言うまでもない。
そうゆう光景を見ると、仲の良いコンビなんだなぁとつくづく感じる。
ゆえに、お互い、ピンの仕事が多いのが残念である。
もっとたくさん、130Rのコンビとしての笑いを見てみたいものだ。


要するに、上記のように、時と場所、状況によって、
ピンで仕事をする場合、コンビで仕事をする場合、後輩とからむ場合と、
自分の取るべきポジションやツッコミの種類を自在に変化させる芸人さんだと思う
(意識的か無意識かどうかは分からないが)。
ほんこんさんをつまらないという人も、もちろんたくさんいるだろう。
ただ、あれらのツッコミは、ただの文句や愚痴でなく、
ほんこんさんの1つの芸であるという事を分かって欲しい。
そう思って、今後、ほんこんさんを見ると、
以前よりおもしろく感じられる事があるかもしれない。



芸人批評「130R」TOPへ 「お笑いの世界へ〜芸人批評〜」TOPへ
●2003年12月30日初回更新日
●2005年01月26日追記・修正更新日